大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和54年(あ)1964号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人白河六郎、同榎本精一、同安西義明、同大輪威の上告趣意第一点のうち、判例違反をいう点は、第一審判決は所論の各犯罪事実に照応する証拠の標目を掲げていることが明らかであるから、所論は前提を欠き、その余は、憲法違反、判例違反をいう点を含め、実質は、すべて、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、本件詐欺の事案につき、所論は、「本件一三億五〇〇〇万円の農林中央金庫(以下「中金」という。)からの融資は、中金理事長楠見義男らが熊谷組評価書等により原判示の高槻山林に十分な担保価値があると信じその故に行ったものではなく、三〇〇トンぶどう糖大型合理化工場の建設資金として三〇億円の農林漁業金融公庫からの融資がなされるまでのつなぎ資金であったから、本来担保を必要としないものであり、右評価書は中金の内部対策のための形式的なものにすぎなかった。」旨るる主張する。しかしながら、関係証拠によれば、被告人らが、中金に対し面積及び評価額を大幅に水増しした熊谷組評価書を提出するなどして、楠見理事長らをして高槻山林に十分な担保価値があるものと誤信させ、よって本件融資を行わせた旨の原審の認定は、これを肯認することができる。所論の三〇〇トンぶどう糖大型合理化工場計画が本件融資と全く無関係ではなく、その背景事情として本件融資決定になにがしかの影響を及ぼしたことがあるとしても、本件融資が、所論のように、農林漁業金融公庫からの融資のつなぎ資金であって、本来担保を要しないものであり、高槻山林はその担保価値を問題としない単なる「添え担保」であったとは、到底認められず、明利酒類及び熊野産業の引受けの事実、いわゆる東食クッション融資の存在も、所論主張の右事実を推認するに足りる事情であるとは認め難い。結局、三〇〇トンぶどう糖大型合理化工場計画の存在により、高槻山林の担保価値に関する欺罔行為と本件融資との因果関係が否定されるに至るものということはできないのであって、本件詐欺の成立を認めた原判決に事実誤認の疑いがあるとは認められない。

そのほか、所論にかんがみ、記録を調査してみても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 木戸口久治 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例